英国の会計監査規制に関する議論について

会計

英国では会計監査に関する改革が議論されている

 最近、以下の記事にあるように英国において会計監査に関するルールの改革が議論されています。

「監査ビッグ4」英で解体論 議会下院委が提言: 日本経済新聞
【ロンドン=篠崎健太】「ビッグ4」と呼ばれる巨大監査法人の改革論議が英国で山場を迎えている。英議会の委員会はこのほど監査と非監査業務を完全分離する「解体」に踏み込んだ提言をまとめた。

 なんだか騒がしいなとは思っていたのですが、これまで詳しい経緯をしっかり確認してきませんでした。しかしいよいよ公式の場での議論が本格化しそうな様子なので、ここで一度、なぜこうした議論が巻き起こっているのかを改めて調べてみました。

大手建設会社の突然の破綻

 2018年1月、英国の建設大手カリリオン社が破綻しました。同社は公共事業やインフラ建設などの大型工事を主力事業とし、英国やアイルランド、カナダ等に4万人以上の従業員を抱え、3万社の下請業者と取引する大企業です。企業が破綻することは自由競争の中で必ず起きうることであり、それ自体は善でも悪でもありません。しかし今回は、そこに至るまでの経緯に疑問の声が上がっています。
 というのも、市場参加者に対する情報開示を時系列にすると、以下のような流れだったのです。
・2017年3月1日:2016年12月期の年次報告書を提出。
・2017年7月10日:845百万ポンドの工事損失引当金を計上することを発表
・2017年9月11日:1,045百万ポンドの工事損失引当金を計上した中間決算を公表
・2018年1月15日:裁判所に破産を申請し、受理
 2016年12月期の財務諸表からは、破綻につながるようなリスクの兆候は読み取ることができず、7月の工事損失の公表から破産までわずか半年という電撃的な破綻劇でした。2016年12月の純資産は729百万ポンドが一気に吹き飛ぶほどの大規模な損失が生じうる状況で、市場参加者に対して十分な情報が提供されていなかったのではないかということが騒動の発端となっています。

2019.4.14追記
カリリオン社の2016年12月期の財務諸表を読んでみました。こちらの記事も併せてどうぞ。

なぜ破綻に至ったのか?

 報道からは、厳しい競争環境の中で赤字工事が増えてしまったこと、海外での工事案件での契約トラブルで、2億ポンドもの資金回収が滞り、金融機関からの支援も受けられずに資金がショートして破産申請に至ったようです。
 もともと建設業というのは資金繰りに非常に気を使わなければいけない業種です。工事を進めるためには常に支出が発生しますが、工事代金の回収は完成時まで待たなければいけないことが多いからです。そのため構造的に借入金への依存度が高くなります。
 また、会計的には日本で言う工事進行基準の形で工事の進捗に応じて売上が計上されるので、あたかも順調に事業が運営されているように見えますが、資金的な裏付けのないまま利益剰余金が積み上がり、 見積工事原価の増加や債権の回収懸念などが生じると突然の巨額損失が計上されやすい構造です。そのため損益計算書を見ていても非常に評価が難しい業種です。

会計監査に問題はあったのか?

 2016年12月期の財務諸表では、上記の事案に係る工事損失引当金も貸倒引当金も計上されていませんでした。この財務諸表に対して大手アカウンティングファームのKPMGが監査を行い無限定適正意見を表明しています。しかしアニュアルレポート提出のわずか4ヶ月後にこれだけ巨大な引当金計上をアナウンスするということは異例です。2016年12月期で既に分かっていなかったのか、という疑問が生じるのも当然のことです。もしこの時点で、あるいはもっと早くに引当計上すると同時に継続企業の前提についても警告する開示があれば、市場参加者の行動は大きく変わっていたでしょう。
 ポイントとしては、赤字工事に対する工事損失引当金の計上が十分であったか、売上債権の回収可能性の検討が十分であったかという2つがメインでしょう。また、1,000百万ポンドを超えるのれんも計上されていますが、こちらについても減損テストがしっかり行われていたか気になるところです。

破綻後の推移

 英国の会計・監査等の規制当局である財務報告評議会(FRC)は、KPMGの監査に関する調査を行った結果、2018年6月にKPMGの監査品質を「unaccetable」と斬り捨てるレポートを公表しました。また、度重なる会計・監査に関する不祥事に対して、KPMGだけでなく 監査業界全体に問題があるとの声が大きくなり、制度改革へ向けての動きが本格化。2018年12月に英国競争市場庁(CMA)は「法定監査サービス市場に関する調査報告書(中間報告書)」を公表。その中で監査品質の低下の原因として監査市場の構造的問題に言及しました。さらに同時に公表された「FRCに関する独立レビュー」において、現行のFRCを廃止してより強力な権限を持った新機関を設立する等、新たな規制の枠組みについての提言がなされました。それらを受けて 英下院の民間企業・エネルギー・産業戦略委員会がレポートをまとめたのが、冒頭のリンク先記事です。

今後の展開

 これまでにも、エンロン事件など大きな会計不祥事が起きるごとに会計監査の在り方が問われ、様々な規制強化が繰り返されてきました。エンロン事件では大手グローバルファームのアーサーアンダーセンが、日本のカネボウ事件では日本の大手監査法人の一つであった中央青山監査法人が解散することになりました。今回の事件は英国でのBIG4体制の解体につながるのでしょうか。ファームローテーションやKAMの導入など、ヨーロッパはとてもスピーディーにルールを作ってしまう印象があります。大きなインパクトのある改革が今年中に行われる可能性がありますので、今後の展開に注目したいと思います。

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