Carillion社の財務諸表を読んでみました

会計

英国の監査規制改革議論の発端

 先日の記事で、英国で会計監査の規制改革が議論されていることをご紹介しました。

 個人的に興味を持ったため、この騒動のきっかけとなったCarillion社の財務諸表をインターネットで探して読んでみることにしました。
 前回の記事のおさらいとなりますが、Carillion社は2016年12月期の財務諸表を2017年3月に公表した後、同年7月に突如として巨額の工事損失の計上を発表。中間決算で債務超過に陥り、その後2018年1月に破産申請をするにいたりました。今回は、適正性が特に問題視されている2016年12月期の財務諸表について読んでみたいと思います。

インターネットで「Carillion annual report」と検索してみたところ、多数の企業のアニュアルレポートを掲載しているWebサイトがヒットし、簡単に目的の財務諸表を見つけることができました

アニュアルレポートは大きく以下の4つのパートに分かれています。

  • Strategic report
  • Governance
  • Financial statements
  • Additional information

最後の「Additional information」は役員や関係会社の一覧、5年分の主要な経営指標の推移などが含まれています。日本の有価証券報告書ではこれらも財務諸表の前に記載される項目ですね。

事業内容を理解する

財務諸表の数字に入る前に、ますは事業内容についての記載を読んでみましょう。「Strategic report」の中の「What we do」と題されたページで、4つの事業が説明されています。

  • Support services…道路、線路や発電施設など様々なインフラ施設を含む保守運用サービス
  • Public Private Partnership project…いわゆる官民連携事業。公共施設に関するプロジェクトへの参画・投資
  • Middle East construction services…中東での建設事業
  • Construction servises…イギリスやカナダでの建設事業

売上高としてはSupport survicesが2,712百万ポンドと最も大きく、次いでConstruction servicesの1,520百万ポンド、Middle East Construction services 668百万ポンド、Public Private Partneeship project 313百万ポンドとなっています。

次に「Our principal risks」のページで、会社が認識している事業上のリスクを確認してみます。会社自身が認識している主要なリスクがマトリクスで示されています。

上に行くほどインパクトが大きく、右に行くほど緊急度が高いリスクを示しています。緑の丸で示されるGross basisは、そのリスクに対して何も対策をしなかった場合の影響度を意味します。青の丸で示されるNet basisは、適切な対策を講じた上でもなお残る影響度を意味しています。どちらの基準でも1から4のリスクが特にインパクトも緊急度も高いと示されています。

  1. Work-winning…顧客の要求の変化、競争の激化、需要の減少などで受注が低迷するリスク
  2. Contract management…契約管理の失敗のリスク
  3. Pension liabilities…退職給付にかかる負債が増大するリスク
  4. Brexit…BrexitによりEUの労働者の利用やEUの投資家からの資金調達が難しくなるリスク

1と2は表裏一体といいますか、1のリスクに対してなんとか受注を継続させようとした結果、不採算な契約を結んでしまい2のリスクが顕在化する、というような関係にある気がします。後に起きる多額の工事損失引当金の計上というのは、まさにこのあたりのリスクが実現したものと言えるでしょう。また3については破綻申請後の報道の中で退職給付にかかる負債の過少計上の疑惑が報じられるなどしており、これもリスクに対して適切に対応できていなかったことが(結果論ですが)わかります。4は今回の騒動に直接的な影響はありませんが、確かにBrexitによって事業運営に大きな影響が出ることが予想されます。こうした企業はおそらく多数存在するはずで、Brexitの行方とその後の経済状況は非常に懸念されるところです。

主要な経営指標の推移

 さて、いよいよ財務諸表数値を見に行ってみましょう。「Financial statements」の章を見に行ってもよいのですが、時系列での推移を把握するために「Additional information」の「Five-year review」のページから見てみます。

まずは売上高。

2012年から2014年はやや足踏み状態のように見えますが、2015年、2016年と大きな伸びを見せています。内訳をみても、各事業がいずれも売上高を伸ばしています。一見すると非常にポジティブな業績ですね。まさかこのあとすぐに破綻するとは思えません。

次に営業利益です。売上高と同じく左端が2016年、右端が2012年です。

ここでは財務会計上の営業利益ではなく、業績の説明により有用な形とCarillion社が判断した調整後の利益が使用されています。具体的には、企業結合時に識別した無形資産の償却費、一時的な損益およびJVの金融・税金費用を控除しているようです。利益の趨勢を売上高と比較するとどうでしょうか。売上高の伸びのわりに利益が伸びていない、むしろPPPや中東は減益となっていることがわかります。このあたりについて補足的な説明がないか探してみましたが、わかりやすく原因を説明している箇所は見当たりませんでした。

 財政状態も見てみましょう。


普通の貸借対照表ではないので少しわかりづらいかもしれませんが、売上高が増加する一方でBSも拡大しているかと思いきや、Net operating assetsは2015年から2016年にかけて縮小しています。退職給付にかかる負債が345百万ユーロ増加しているあたりが目立ちます。その結果、純資産もお300百万ポンド近く減少しています。この退職給付の増加について調べてみたところ、「Consolidated statement of comprehensive income」の中に「Remeasurement of defined benefit liabilities」という項目で示されていました。これにより純利益はプラス、包括利益はマイナスという結果になっています。損益計算書だけ見ると順調に利益を稼いでいるように見えるが実は純資産が減少しているという状況ですので、 財務諸表の読み方が難しい状況であったと言えるかもしれません。

 最後にキャッシュ・フローです。

  このキャッシュフローも財務会計とは異なり調整されたものですので注意が必要です。調整後の営業キャッシュ・フローは277.1百万ポンドとなっており、おおむね営業利益を上回るキャッシュ・フローを稼いでいることになります。しかし為替変動の影響が大きかったことから退職年金や借入利息・税金・配当などの支出を賄いきることができず、借入金の増加でカバーした結果となっています。

財政状態を更に分析してみる

財務の健全性について、もう少し掘り下げてみます。今度は「Financial statements」のパートの「Consolidated balance sheet」を読んでみます。

資産としては無形資産と営業債権、負債としては営業債務と退職給付が目立ちますね。工事損失引当金の計上はなく、進行中の工事から多額の損失は生じない前提の財務諸表となっています。また、財務健全性を示す主な指標を計算してみると以下の通りになります。

  • 流動比率:102.4%
  • 自己資本比率:15.8%
  • 有利子負債・営業キャッシュ・フロー倍率:9.4倍

流動比率が102.4%というのは、かなりギリギリな印象です。流動資産と流動負債がほぼイコールということですので、債権の回収が滞るなどすると直ちに資金ショートのリスクが高まります。銀行からの機動的な借入枠がしっかりと確保できているかが重要になりますね。また、自己資本比率が低いことは予想していましたが固定負債があまり大きくないというのは意外でした。建設工事は長期にわたるので長期借入で大きく調達するというイメージがありましたがそうではないのですね。Support servicesが安定してキャッシュを稼げているからなのかもしれません。有利子負債と営業キャッシュフローの比率は大きな違和感はないところでしょうか。なおこの指標の計算には財務会計上の営業キャッシュ・フローを使用しています。

監査報告書を読む

最後に、KPMGの監査報告書を見てみましょう。「Governance」の「Independent auditor’s report to the members of Carillion plc only」のページです。英国では既に長文式監査報告書が導入されており、日本の監査報告書のように定型文のみではなく、具体的に何を重要なリスクとして識別して監査にあたったのかが説明されています(日本でも2021年3月期決算の監査から長文式監査報告書が導入されることが決定しています)。

監査上の重要事項として、工事進行基準にかかる収益認識、その他の収益認識、のれんの評価の3点が挙げられています。しっかりと重要事項のひとつ目に工事進行基準にかかる会計処理が挙げられており、工事損失の見積もりはこの中に包含されています。

読んでみた感想

 結果的に破綻したことを知った上で読んでいますのであれこれとコメントすることができていますが、そうでなかったとするとこの財務諸表から破綻の可能性を読み取ることは難しいでしょう。たしかに流動比率がギリギリであったり、売上高の伸びの割には利益が物足りないということはありますが、過去の趨勢に照らして見たときにそこまで急激に経営状況が悪化したとまでは思いません。そのため、やはり工事損失引当金に関する監査が十分でなかったのではと言いたくなるのも最もだと思います。監査人も重要事項に挙げて十分な監査を行ったと主張していますが、決算公表から数か月で多額の工事損失引当金が計上されるというのは財務諸表利用者からすれば納得しにくいでしょう。一方で、工事損失の見積もりについては会計上の見積りの要素が大きく、監査をする上で非常に難しい論点であることも事実です。見積りの監査においては被監査会社からの正確な情報提供と財務会計への理解が欠かせないだけに、規制当局には監査法人だけでなく企業サイドへも、適正な財務報告への意識を高める働きかけを期待したいところです。

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